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メンタルヘルス障害に思う
先日、産業保健推進センターの会議で労働条件改善のためのL休暇をとるよう指示するように話がありました。L とはlong(ロング)で長期休暇(数日以上まとめてとる)の意味ではありました。最近はメンタルヘルスの障害の方がフィジカルヘルスより問題になる傾向があるためかと推測しました。確かに、最近はコンピュータや種々の事務機器が整備され、中身の濃い仕事を集中して出来るようになった反面疲労度も強くなり、また運送業などでは長時間に及ぶ車の運転等、過酷な労同条件の仕事があって、フィジカルヘルスと共にメンタルヘルスが起こっているので、今までより長い期間の休暇を取ることも必要になってきたかと思います。
過日、元上野動物園の園長であった中川志朗先生に動物の病気についての話を聞く機会がありました。動物園は 1828年にロンドンで誕生しましたが、日本では明治のはじめに上野動物園が最初に出来て、多分100年ぐらいは経つのではないかと思います。最初は檻の中で野生動物を飼って見せるだけでしたのでまもなく死にました。何とか長生きをさせようと餌を工夫し、約30年前にアメリカのシカゴ動物園の飼育係だったと記憶していますが、動物の餌(栄養)調べて改良を行い、それに伴って飛躍的に長生きするようになったそうです。また、動物にはいろいろな病気があって、その治療に大変苦労した話もありました。そのなかで、タレントの西田敏行さんがファンだったというゴリラのブルブルが、手の届くかぎりの毛を食べてしまう。そして毛は消化されないので、胃の中に毛球を作ってしまう。この治療には大変苦渋したので、毛を食べるのはなぜだろう、なぜだろうと考えました。それは他の動物にも同じようにあったため、野生のゴリラの行動について考えてみると、野生のゴリラは餌を採るために朝から晩まで動き回っている。動物園で栄養満点の食事を出され、それも栄養価の高いのでカロリーその他は十分でも野生に比べれば少量ですぐに終わってしまい、檻の中では何もすることがない退屈病だったわけであります。そこで時間を潰すためにタイヤを入れたり野生と同じかそれに近い環境にし、他の動物を入れたり、その他時間を潰せそうな遊具を入れたりしたところ善くなったそうです。野生動物の場合は生殖能力を失うと1年以内に大抵死んでしまうので問題はないようですが、動物園では長生きし過ぎて世界中の動物園が高齢動物をどうするのか困っているそうです。(人間の社会と似ているのかもしれません)
今でもあると思いますが、職業紹介の雑誌に「トラバーユ」というものがありました。トラバーユとはフランス語で「職業」という意味で、その語源は馬の蹄に蹄鉄をつける時にいれる枠のことだそうです。だから、フランス人は職業に就くということは枠に入れられると考えるようであります。フランス人は仕事以外に生きがいがある訳で、枠から離れたら自由自在に何でも出来る楽しめる。ところが、日本人はフランス人と違い仕事を生きがいとしている人が多く、休みを取らされても時間をうまく利用できなくて、動物園の動物と同じようなことになってメンタルヘルス障害が起こっているかなと考えております。
私はメンタルヘルス障害には休暇だけではなく、時間を有効に使い仕事以外に生きがいを持つことをかんがえていかなければならないのではないかと思います。